東京大学 人文社会系研究科 受験対策について

昴教育研究所・言語文化研究所の英語・論述・研究指導担当の高橋です。

本日は、東京大学大学院、人文社会系研究科の入試対策についてご紹介します。

東大人文社会系2019年度の募集要項掲載ページ(外部サイト)

以下、6つの項目にわたって記します。
(1)東大 人文社会系研究科、近年の入試制度・特に日程面の変更に関して 
(2)東大 人文社会系研究科の組織と入試システム 
(3)東大 人文社会系研究科、語学試験の特徴(英語を中心に)
(4)東大 人文社会系研究科、語学試験の難易度 
(5)東大 人文社会系研究科 専門試験対策 
(6)研究計画書および卒業論文に代わる論文について

(1)東大人文社会系研究科、近年の入試制度・特に日程面の変更に関して 
まず、同研究科の近年の入試制度の変更について記しましょう。
・夏季入試の一部導入
長年にわたり、同研究科の入試は冬季(1~2月)のみ実施されてきました。これに対して、2018年度(2017年)入試より、一部の専門分野で夏季入試(8~9月)が導入されています。

・冬季入試の日程変更
もう一点、重要な変更は、2019年からの冬季入試の日程変更です。従来冬季入試は、センター試験の翌週土曜日に一次試験が実施されていました。そして、同日には総合文化研究科の文系4専攻+人間の安全保障の試験も実施されていました。したがって当然、人文社会系と総合文化の両方を受験することができませんでした。これが、2019年度には、一次試験の日程が変更され、総合文化研究科の試験日と別の日に実施されました。つまり、総合文化研究科と人文社会系研究科の併願が可能になったのです。東京大学の大学院ならなんでも良い、と無闇に併願するのは決して推奨しませんが、両大学院は比較的似た領域を扱うことができ、どちらの大学院でも研究ができる人にとっては、チャンスが増えた、と言えるでしょう。
(この措置は10年ほど前に一度実施されています。その翌年からはまた同日に戻りました。したがって、来年度も別日程が維持されるかは現時点では見通すことはできません。)

上記のような変更は、受験生の増加を目指した変更だと推測できます。ただし、これは入試が簡単になったということは意味しません。むしろ、「入試を簡単にしない」ための措置だと考えられます。従来の厳しい基準を維持したまま、入学者の数を確保するために取られた措置だと考えるべきでしょう。

実際、志願者数は364名(2017年度)から405名(2018年度)へと増加していますが、入学者数*は逆に、128名(2017年度)から113名(2018年度)へと減少しています**。
*入学者数と合格者数はほぼ近い数字である、とみて差支えありません。
**東京大学人文社会系および総合文化研究科(文系)においては、「定員」はあくまで目安で、実際の合格者はそれより少ないです。たまに予備校等の大学院入試情報サイトで、「受験者数」と「定員」から「倍率」を割り出して、あたかも大学院入試が容易であるかの如く宣伝しているのを目撃しますが、そのような「まやかし」に惑わされることなく、情報を取捨選択しましょう。

(2)東大人文社会系研究科の組織と入試システム 
東大人文社会系は、基礎文化研究専攻、日本文化研究専攻…etc.というかたちで7つの専攻に分かれています。ただし、院試という点では、この単位にはそれほど意味はありません。語学は共通試験*を実施し、専門試験は「専門分野」ごとに実施されます。二次試験の面接でも、基本的にはこの「専門分野」の所属の先生方が出席されることが多いようです(いくつか例外の報告もあります)。
*英語英米文学、フランス語フランス文学のような各国文学の専門分野では、専門問題の中に当該言語の語学試験が出題されます。詳しくは次の項目をご覧ください。

(3)東大人文社会系研究科、語学試験の特徴(英語を中心に)
一部の専門分野、および、文化資源学・文化経営学の≪社会人特別選抜≫を除いては、2つの外国語の試験を解かなければなりません。また、「英語英米文学」など、ある特定の言語地域の言語や文学を対象とする専門分野では、専門問題の中に、独自の問題を含めてあり、そのため、人文社会系の外国語共通問題で当該言語の試験は実施されていません。

上記のような各国文学の専門分野では、難解な文章を短時間で日本語訳することや、その言語でまとまった量の文章を書く表現力などを問うことが多く、難易度はかなり高いと言えるでしょう。

さて、共通問題の分析に戻りましょう。私は英語の担当なので、英語の問題を中心にご紹介いたします。まず基本的な形式は、英語長文の下線部を日本語訳する問題が、2問出題されます。英語で書く出題は少なくとも、過去30年は出題されておりません。

出題の傾向としては、2008年度までと2009年度以降で大きく変化がありました。2008年度までは、訳出箇所の量が少なく、そういった中で、「仮定法条件節中のifの省略」や、「no比較級を利用した構文」、さらに「文の中間に修飾語句が挿入された形」など、構文の把握で失敗すると大きく減点を受ける内容が出題されていました。一見すると、「簡単」にも見える試験ですが、英語の教師からすると、「点差が大きく開きやすい」「一つのミスが大きく影響を及ぼす」問題と感じます。

2009年度以降は、出題の量が徐々に増えていき、一時期は、解答時間内に解くのが苦しいくらいまでに増加していました。その傾向は2017年度まで続き、2018年度夏季入試からは、少し分量の厳しさが緩和されています。また、2017年度までは毎年のように、物語文(小説など)が出題され、その多くは、第二次世界大戦前、あるいは19世紀後半の文章に由来するものでした。しかし、2018年度夏季および2018年度冬季はそのような出題が出されておらず、まだ公表されてはいませんが、2019年度の夏季・冬季入試とも、物語文は出題されなかったようです。これは注視していくべき傾向ですが、受験者は、物語文が出題されても、慌てずに、文法を最優先して解答を作成するように心がけましょう。(「どこを舞台にしたいつの物語かもわからず、かつ語り手のジェンダーもわからない」物語文において、安易に「文脈」などと言い出すのは大失敗の元です。)

以上のような変遷を経つつ、現在の出題は、標準的でバランスが取れた出題と評価できます。文章内容は、「ヘンリー・ジェイムズの評伝」(2018夏)、「大規模気候変動が国際社会にもたらす影響」(2018夏)、「意志決定をめぐる心理学的考察」(2018夏)、「技術変動がもたらす教育の変化をめぐるユートピア的思考の批判」(2017)など、特定の専門領域に偏らず、しかし読み応えのある、面白い内容の出題が多いです。下線部は、英文法・熟語・語彙についての基礎的・標準的な知識を問う箇所から、しっかりとした構文把握をしないと大きく誤ってしまう箇所まで、上手にバランスを取って、受験者の英語力の正当に評価しようとするものです。

(4)東大人文社会系研究科語学試験の難易度 
これも英語中心になってしまいます。ただ、フランス語の先生のお話では、フランス語について「東大、総合文化研究科よりは文章の難易度は高くない」とのことでした。そしてこの点は、おおむね、英語についての私の評価とも一致します。

ただし、過去のデータから、一次試験の突破に要求される得点率は、かなり高いものがある、と感じています。実は専門分野によっても、語学試験でのハードルは少し異なっているのですが、それでもおおむね、私の採点では、第一外国語に関して、標準的な専攻では、70%~75%は超えたいし、よりハードルの高い専攻では、80%は超えなければいけないだろう、と感じています。

また、第二外国語に関しては、上記より少し低い得点率でも許されると思いますが、決して、簡単に突破できる試験ではありません。

あくまでも、過去の限られたデータ*に基づくものですが、東京大学、人文社会系研究科は、語学に関して、一次試験の突破がもっとも難しい研究科の一つです。
*大学院入試において、信頼できる規模の「模擬試験」は存在しません。その点で言えば、昴での過去の受講生の得点や合否は、限られているけど相対的には「マシ」なデータだと考えられます。

(5)人文社会系研究科 専門試験対策 
専門試験は「専門分野」ごとに出題され、出題の内容はもちろん、その出題形式も大きく異なっています。いきなりある学問分野の「概説」「入門書」「文学史」などに飛びつくのではなく、まずは過去問を見て、どういったことが問われているのか、という点を確認することが重要です。特に、専門分野によっては、英語などの外国語で文章を読んで論じることを求められたり、論述中心の分野もあれば、実質的に、「知識」のみを問う分野もあります。

そうしたなかで、一つ特徴的なのは、「用語説明」問題での要求の高さです。
通常、多くの大学院入試では、当該分野についての用語説明は「選択式」のものが多いです。たとえば、「以下の7つの用語から3つを選択して知るところを記せ」のような形式です。それに対して、東大では、出題されたすべての用語を説明することを求められます(ちなみにたとえば「哲学」では、英語はもちろん、ギリシャ語表記の用語まで、そのまま出題されています)。

このように用語説明がハードルが高い反面、全ての用語が説明できなければいけない、とは考えない方が良いでしょう。もちろん、こうした用語説明は、ある学問分野の人々が共有しているべき事項を示すものですが、そういった要求にこたえるのは必ずしも容易ではありません。少なくとも、「大学の講義」をただ受けていただけで身につくものではありません。その点はちゃんと対策すべきである一方で、あまりそちらにとらわれて、語学や論述形式の出題への応答が甘くなってしまっては本末転倒だと思います。

(6)研究計画書および卒業論文に代わる論文について
事務局作成の、「昴の研究指導」にも書いてある通り、二次試験のために提出する「卒論相当論文」はかなり重要です。この点に関して言えば、人文社会系は、出願時に研究計画を提出し、その後*卒業相当論文を提出することになっています。このため、実質的には、研究計画は卒論相当論文によって更新されており、むしろ、卒論相当論文を改めて作成したあとの研究計画について、再度述べることが求められるようです。もちろん研究計画書を疎かにして良いわけではありませんが、本命は卒論相当論文だと考えましょう。
*夏季入試については第一次試験実施前、冬季入試については第一次試験実施後

当然ながら、人文社会系研究科に提出する卒論相当論文は、東大文学部のなかでも、研究を志す人の卒論に匹敵するものでなければならず、相当な準備を以って、かつ、細心の注意を払って執筆したものでなければいけないでしょう。こちらもかなり高い要求ですが、難関の一次試験を突破したのに、こちらの論文の不出来や努力不足で不合格になることがないように、しっかりと「勉強」と「研究」の両立を図る必要があります

夏季入試をお考えの方、なかでも、2020年度に大学4年生を迎える方は、特にご注意ください。この試験では、「卒論」か「卒論に代わる論文」の提出時期がかなり早くなっています(2019年度は8月)。大学では、「就職活動の長期化」の影響もあり、「卒業論文」への動きがかなり後ろにずれこんでいます。昴では、3月末に正式開講する「春季集中特別公開講座」以前でも、本科生への正式なお申し込みか、オーダーメイド講座の利用によって、早期にこの卒論の作成のための面談を実施しています。研究は、≪インプット→全体の計画→インプット→計画の見直し→章構成→執筆≫という試行錯誤のうえで、ようやく形になります。専攻によって8,000字、12,000字、20,000字、40,000字(20,000~40,000は研究分野にもよりますが、卒業論文相当の分量と言って良いでしょう)と、要求される字数は様々ですが、8000字で説得力のある内容の提出物を作成するにも、膨大なインプットが必要となります。ぜひ、お早目の準備を心がけてください。

昴、英語・専門論述担当 高橋

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