東大 言語情報科学専攻 受験対策について(外国語・専門問題)

東京大学 総合文化研究科 言語情報科学専攻の入試対策について

英語・論述担当の高橋です。本日は、東大総合文化研究科入試における8つのカテゴリーのうち、「言語情報科学専攻」の受験対策について記したいと思います。以下、3つの項目に分けて執筆します。

「8つのカテゴリー」については、「東京大学 総合文化研究科(文系)専攻 入試対策概要」をご覧ください。

(1)東大 言語情報科学 入試の特徴
(2)東大 言語情報科学 外国語問題の特徴と対策
(3)東大 言語情報科学 専門問題の特徴と対策

(1)東大 言語情報科学 入試の特徴

東京大学総合文化研究科、言語情報科学専攻は、様々な形で、言語に関わる研究を行うことができる大学院です。過去の昴からの進学者では、「文学」を専門にする方、および「言語」を専門にする方*が主として同大学院に進学しています。総合文化研究科のなかでも、独自の、そして独特の外国語試験を実施しているのは、こういった側面の反映と考えられます。加えて、専門問題を分析するにあたっても、専攻のなかの「多様性」を念頭に置く必要があるでしょう。

*個人情報保護のため、細かい研究内容や研究アプローチは省略させていただきました。

(2)東大 言語情報科学 外国語問題の特徴と対策

言語情報科学専攻の外国語試験は、東大総合文化研究科共通問題である「英語I」と、専攻が出題する外国語II(2言語)から構成されます。したがって、最低2言語、場合によっては3言語での受験が可能です。外国語のなかには「日本古典」が含まれますので、日本語学や日本文学を専攻にされる方はこちらを選ばれる方が多いようです。その場合には、「英語+日本古典」にすることで、「第2外国語」を用いずに受験することが可能です。

東大総合文化共通の出題である「英語I」については、次のページをご覧ください。

東京大学 総合文化研究科共通英語試験対策について

さて、言語情報科学の「外国語II」の特徴を一言であらわすと…「難しい」です。

私が専門とする英語で言えば、第1問は、説明問題と下線訳の問題(年度によっては、4択の選択問題も出題されます)、第2問は、英語の文を日本語に要約(120~150語程度)、第3問は、日本語の文を英語に要約、という出題になっています。

第1問は、文章は「やや難」というところですが、出題形式は他の大学院の試験と似たようなもので、それほど問題は発生しないでしょう。厄介なのは、第2問と第3問です。

第2問の「英語を日本語で要約」は、受験生の力量によって差が大きく出る出題だと言えます。「要約」というのは、細部を適当に拾ってコピペすれば良い、というものではありません。自分の頭の中で、中心的なテーマとそれをめぐる主張を整理して、大胆に言い換えるなどの努力が必要であり、そのため、中途半端な英語力では、かなりポイントを外した解答になってしまう危険があります。昴の授業でも、要約問題の答案は大きく得点が分かれる傾向があり、そのため、しっかりとした英語の読解力を身に着けたうえで、しっかりと訓練する必要があるでしょう。

第3問の「日本語を英語で要約」は、大学院入試のみならず、大学入試を含めても、かなり特異な出題だと考えられます。実際この形式の試験を出題しているのは、総合文化研究科はもとより、東京大学大学院全てでも、この専攻のみです。

第2問と同様に、文章のテーマと主張内容をよく理解することが必要ですが、それに加えて、「自分なりに英語で考える」ことが求められます。日本語を第一言語とする学習者においては、インプットに比べてアウトプットが苦手、という方は多いです。(というか、普通どんな外国語学習においても、インプットよりアウトプットの方が得意、ということは、ほとんど考えづらいのですが。)そうしたなかで、「自分が表現できる範囲で日本語の文を置きなおして、英語で考える」ということが求められるだけに、この問題はかなり厳しいものだと言えるでしょう。不幸中の幸いというか、この出題形式は相当に難易度が高く、過去の合格者の報告などを聞く限り、あまり得点率は高くないものと推測されます。とはいえ、「白紙」はもちろん、あまりにも外れた答案で極端な低評価を受ければ、合格はおぼつかないと思います。少しでも英語力を高めて、対応していくようにしましょう。

最後に、英語以外の言語についても記します。上述のように英語の第3問が難しく、かつ、同試験では、第1外国語と第2外国語の各3問、計6問のうち、5問を選択すれば良い設定なので、英語の第3問を回避することを考えたくなりますが、なかなかそうもいきません。フランス語・中国語・ドイツ語・イタリア語・韓国朝鮮語では、日本語を訳出する形ですが、当該言語の運用能力を問う出題が出ています。また、中国出身の受講生の方の証言によれば、中国語の「中文和訳」問題2問のうち、1問は古典の中国語で、現代の中国の人は苦戦するそうです。「日本古典」の問題も、3問中1問は万葉仮名で出題されており、相当専門的な対策をしないと厳しいでしょう。以上を考えると、「当該言語を専門とする人」を除けば*、大変ではあるけれど、「和文英要約」を解答した方が良いかもしれません。
*たとえばフランス文学やドイツ文学を専門にする人が、「和文仏訳」や「和文独訳」を回避するのは、悪印象を与え、一次試験に合格しても、二次試験で不合格とされる危険があるので、その点は十分考慮してください。(もちろん、昴ではそういった点も具体的にアドバイスします。)

(3)東大 言語情報科学 専門問題の特徴と対策

昴での面談で、言語情報科学の専門問題について、「こんな問題解けない」というご相談を頂くことが良くあります。これについては、「出題の条件をしっかり考慮する」ことが必要です。

(1)で記したように、言語情報科学は、言語に対する様々なアプローチで研究する教員・院生が所属しています。そうした専攻の性質を反映して、試験問題でも、複数の領域の出題が掲載されています。純粋に院試の問題という観点から見れば、これは大きく分けて、「情報処理(プログラミング)」「言語学(言語学・言語教育学/第二言語習得(SLA)・社会言語学)」「韓国朝鮮語」の4領域に分けることができるでしょう*。このそれぞれ4つの領域から、第I問(用語説明)、第II問・第III問(論述問題)が出題されています。
*いうまでもなく、韓国朝鮮語も言語学ですが、出題に解答する前提として、韓国朝鮮語の能力が必要なため、ここでは便宜上、言語学とは異なる領域に分類しました。

ここで注意が必要なのは、「すべての問題に解答する必要はない」ということです。出題をよく読めばわかるように、第I問(20問程度)からは2問、第II問・第III問からは1問選んで解答すれば良いわけです。したがって、「自分の専門以外の出題は無視して良い」と言えます。

それぞれの領域の出題について、簡単に傾向を述べておきます。ただし、純粋な言語学と情報処理、および韓国朝鮮語は、専門性が高いため、門外漢からのコメントはできません。もっぱら、文学・社会言語学・言語教育学/第二言語習得(SLA)を中心に記します。

第II問はテーマ型の出題です。「文学と声」のようなテーマなどが出題され、それについて、具体例を入れながら論じる形が主流です。言語系でも、「言語変化」などのテーマについて論じることが求められることが多いですが、言語教育学ではしばしば、英語で短い文が与えられ、それの理解と知識の両方が求められることが多いです。第II問は、相対的に、知識を生かさないといけない問題だと言えます。

この点で言えば、文学系の受験者は、それほど対応に困ることは無いでしょう。文学の出題テーマは、特定の国に関するものではなく、近代以降の文学であれば、日本文学でも英語圏文学でも仏語圏文学でも独語圏文学でも(以下略)こたえられる内容です。そして、文学における「知識」とは作品について知識です。ある程度の文学作品を知っていれば、ここで与えられたテーマに引き付けて論じることは難しくありません。加えて、文学系は2題出題されるため、そのどちらかに引っかかる作品を考えるのは、慣れてしまえば簡単です。昴の「論述対策講座」では、こういった専攻ごとの出題に応じた練習も積極的に行っています。

一方、社会言語学・言語教育学の場合、ピンポイントで「知らないこと」が出題されると、解答を作成するのが困難になる恐れがあります。出題に求められる知識自体は、それほど珍しいものではないので、当該領域をしっかりと勉強しておくことも大事でしょう。加えて、「社会言語学」と「言語教育学」の両方を学んでおくことも、リスクマネジメントとしては有効かもしれません。仮に自分がメインとする領域の問いに答えられなくても、もう一方の出題に解答可能な場合はけっこう多いようです。

第III問は、例年、文学系では1~2段落の文を与えられて、それに関するテーマで解答をすることを求められます。また、社会言語学・言語教育学はそれぞれ、実際に行った実験や調査などを示す、グラフ・図版をめぐって解答させる問題が出題されています。

文学系の場合、第II問と同様に、第III問でも2問が例年出題されています。出題傾向を見る限りでは、1問は、文学理論寄りの出題で、ポール・ド・マンや、竹村和子など、文学研究を経験した人間なら(私の大学院時代の専攻は、「英語圏文学・文化理論」でした)「難しそう」となる文が多く、実際、難読なものが多いと言えます。その結果、もう1問の方を選択する解答者が集中するかもしれません。ただし、丁寧に読めば、上記のような文学理論寄りの出題も、そんなに解答しづらいものとは限らず、見た目の「難しそう」に惑わされず、自分のもっている素材で論じやすい方を選ぶと良いでしょう。

社会言語学・言語教育学の場合、第III問では、当該分野で行われた実際の研究の結果を示す、グラフや図表の問題が出題されることが多いです。実はこれは、第II問よりも対応しやすいです。図表と言えば「統計か?」と緊張してしまいそうですが、実は、最低限の英語力があれば、統計の知識が無くても、何が書いてあるか、を理解することは十分にできる素材が与えられています。また、当該研究分野の知識については、基本的な内容さえわかっていれば、あとは、図表やグラフの読みで解答できるものが圧倒的に多いと言えるでしょう。また、過去には、「勤務しているデパートの階層性による使用している言語の違い」(社会言語学)や「臨界期仮説」(言語教育学/第二言語習得)などの、当該研究領域で著名な研究についての図表が出題されていたこともあります。近年は、そこまで著名なものは出題されていないようですが、ちゃんと勉強し、図表にちゃんと向き合えば、必ずしも答案を作成するのは難しくない出題が多いと言えます。

言語情報科学の専門対策で必要なのは、過去問をしっかりと分析して、どんな知識が必要とされるのか、を把握し、それに見合う学習を進めておくことです。当然昴では、こういった点のアドバイスもどんどん行っていきます。

英語・論述担当 高橋

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